わたしの仕事は「いらない仕事」

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 突然ですが、わたしは福祉用具専門相談員という仕事をしています。これまで各種発信において明言はしていませんでしたが、特に隠していたわけでもありません。耳馴染みのない職業かとは思いますが、ざっくりと、介護保険を使ってレンタルできる車いすや電動ベッド等の福祉用具の選定や納品、点検等を行う職業と思っていただければ、今回の記事においては問題ないかと考えます。


 記事タイトルに「いらない仕事」とは書きましたものの、職業として成立している以上、社会に求められる役割ではありますし、わたし個人としては職に貴賤のないものと考えていますので、わたし自身が自虐的に「いらない仕事」と呼んでいるわけではないのです。
 であれば、誰がそんな心無いことを言ったのか。


 あれは2018年のいつかのこと。
 介護保険法の改正により、業務内容に変更がありました。この変更というのが、事業所の利益が減るうえに事務作業量が著しく増大するという、現場の人間に一切よいことのないものでした。そのうえ、後年になって、この改正によって見込まれていたポジティブな効果というものは十分に得られていないらしいことが発表されていたように思います。それならもう撤廃してほしいところですが。
 いえ、これは単なる愚痴であって、改正の内容そのものは本題ではないのです。混乱する現場職員に向けて、改正に伴って増える業務や、その意義についての講習会というものが開かれました。この講習会で登壇された方の発言こそが、数年たった今でも、わたしが納得できていないものになるのです。


 当日登壇された方の内のひとりに、介護保険の管轄省庁である厚生労働省から来られた方がいらっしゃいました。その方の発言が、あまりに無神経無理解でした。
 講習の最後にその方は「これは個人的な意見なのですが」といったような意味の前置きをして、話を始めました。曰く、運営基準に「自己研鑽に励まなければならない」という文言が含まれているのは介護に関する職種のなかで福祉用具専門相談員だけであり、これはつまりわざわざ文章として書かれなければ怠ける職業であると認知されているということで、恥ずべきことである。曰く、それぞれのご利用者に適した福祉用具を選定することなど、理学療法士や作業療法士といった他職種であっても兼任できる程度のことでしかない。福祉用具専門相談員には特有の存在意義はなく、いつ無くなっても困らない、おかしくない職業であるといった内容の「私見」でした。
 すなわち、福祉用具専門相談員は社会に「いらない仕事」であると。


 会場からブーイングのひとつも起きなかったあたり、わたしを含めて参加者は皆「大人」でした。登壇者はやけに満足そうな顔をされていたように記憶していますが、一方でこちらは大いに不満です。
 なにせ開催日が土曜日である上に有料の講習会です。無給で休日出勤していて早く仕事を終わらせて帰りたいところに合間をみて抜け出して、さらにはお金まで払って参加した講習会で「私見」というご高説を頂いたのですから、面白くありません。
 自身を恥じて積極的に自己研鑽に努めろなどとおっしゃいますが、休日というプライベートな時間を消費して、金銭リソースまで消費して講習を受けに来ているのは、勉強という自己研鑽ではないのでしょうか。そして、あの方の個人的な意見というのは、他人の時間や金銭リソースを割いてもらっている場で話すほどの価値あるものなのでしょうか。
 管轄省庁の一職員の私見に過ぎないとはいえ、昼も夜もなく、自身のことよりご利用者のことと思ってガムシャラに働いていたのが一気に馬鹿らしくなりました。だって「いらない仕事」なのですから。実際に、その時の改正以降、定期的に事業所の収入が減るというのがほぼほぼ確定していて、「働けども働けども我が予算達成できず」と頭の痛い現実があり、「いらない仕事」を間引こうとしているのでないかと勘繰ってしまいます。


 しかし、わたしは仕事の内容自体には、そう不満はないのです。無給の残業や出勤が偶にあったりといった不満は、仕事そのものでなく会社への文句ですからね。仕事自体は好き……ではないですが、嫌いでもありません。当ブログを読んで頂けている常連の方からすれば、「嫌いじゃない」を引き出されるぐらいにはわたしが絆されているのがご理解いただけるかと。いわば、デレですね。典藻キロクの貴重なデレ要素ですよ。これを見れたあなたは今日1日微量にラッキー。

 やや脱線しましたので、話を戻しましょう。
 仕事自体は嫌いではありません。それに、わたしに出来そうな仕事というのも、これぐらいしか思い当たりません。なので、「いらない仕事」だからといって手放すことはしませんし、現にあれから数年経った今も同じ職業に就いています。
 随分な言い様に納得はできませんし、気に食わなくもありますが、わたしの人生は振り返れば、「いらない仕事」と言われる程度は苦にするほどのものでもありません。まあ、きっと現場を知らないのだろうな、こういう人が関わっているのなら、そりゃあ現場が苦しくなるような改正になるよなという納得はありました。



 わたしの仕事へのモチベーションは常に地を這っています。非営業日だろうとかかってくる電話や、場合によっては休みをとりやめて出勤しなければならないというのが常態。恋人(現・妻)と母と初めて顔合わせの機会を設けたときにも、仕事の呼び出しが入り、人生を棒に振るかもという不安感を振り切って、仕事を優先しましたよ、わたしは。
 かといって、福祉用具の仕事は身体介護などをするわけでなく、世間にイメージされる介護職とはまた少し違っていることもあり、あくまで「業者さん」「営業さん」としか呼ばれない。そして管轄省庁の職員からは見下されている。嫌になりますが、だからといって手を抜くわけではありません。低いモチベーションで無理やり心身を動かして、日々働いています。たとえ「いらない仕事」であっても、お金をもらって仕事をする以上、わたしはプロでなければなりません。
 そしてなにより、そもそも労働を辞めるという選択肢はわたしのような身分の者にはあり得ません。働かなければ生活できないたたかわなければいきのこれないのですから、どんなにバカにされる仕事だろうが適性がある以上はしがみつきます。



 仮面ライダー……になる前の怪人が友に向けたセリフに「お前は称賛の声がなければ戦えないほど、やわな男だったのか?」というものがあります。よいセリフです。感動的ですね。とても有意味なものです。
 わたしの職は、省庁職員から「いらない仕事」と見下される程度のものですが、現場で接するご利用者や別の福祉・医療職の方からは頼られるものです。仮に別の職種が兼任できる程度の業務内容だとしても、今、わたしに任されている仕事なら、目の前のやるべきことをやります。
 介護職自体が、世間的に「誰でもできる仕事」という不当な認識を持たれているものと感じています。その中でも、福祉用具の仕事は(少なくともわたしは)直接的に恥ずべきものと言葉を向けられました。称賛の声などありません。しかし、それがなくとも戦ったのが、わたしの憧れのヒーローです。ならば、いつも通り、憧れのヒーローに倣って振舞うのがわたしらしいというものです。

 もうひとつ、憧れのヒーローに倣いまして、「人の命は地球の未来」を忘れないようにしています。
 言ってしまえば、「老い先短い」方々に接することが多い仕事ですが、その方々の1日……いえ、1時間先の未来だって、そこにあることに意味はあります。誰かに愛され誰かを愛して、わたしの数倍の時間を生きている人生の先生方です。その本人や、関わる人々の未来を少しでもよいものにしようとするのが、我々の仕事であるはずです。




 ええ、でも。
 福祉用具専門相談員というものが、本当に「いらない仕事」になる日がきたら、それはよいことだと思います。つまりはすべての高齢者や傷病者が車いすや杖、電動ベッド等々の一切の福祉用具に頼らず生活ができる日がくるのなら、それはとても素敵です。
 寿命と健康寿命がイコールになる未来がいつかきて、わたしが食いっぱぐれるなら、ある意味でそれは本望です。そんな未来がきてほしいですね。


 わたしらしくもなく、仕事の話などしてしまいました。
 本当に、らしくないですね。

コメント

  1. まつ より:

    こんばんは(*^^*)
    毎日お疲れ様です☺️

    ブログ拝見しました!

    キロク様もその場にいた皆様も、
    大人で偉いなと思いました😢
    私だったらその人が話し終わって降りてきたところに歩いていって
    「お前の存在が不要なんだよ」
    って言っちゃいます😭笑
    そういう偉そうなフリして
    意味不明な、理不尽なことをこっちに押し付けてくる奴のことは許せないですよね…

    その場で言わないと
    言われたことずっと引きずるし
    こっちだけイラッとするのはフェアじゃないので🤔

    キロク様がそいつにイラついた時の感情が文章から伝わってきて、私が怒ってしまいました🤣
    大人気なくてすみません🙇‍♀️

    Xで仕事の愚痴を吐き出したいと呟かれていましたが、私で良ければ愚痴ってくださいね☺️👊
    いつでも聞きますよー!!!🔥💪🏻

    • 典藻キロク より:

      先生、コメントありがとうございます。
      いつもお読み下さり、励みになっております。

      共感いただけて嬉しいです。
      省庁職員とはいえ、実務を体験したこともない方が語るのが無理解甚だしかったです。
      しかし、市井の講習会に駆り出される程度の職位ということは、改正を決定した張本人というわけでもないでしょうし、彼に何を言っても仕方なかったものと諦めています。

      われわれ介護保険に関する仕事は、公的な財源の逼迫を理由に年々経営が苦しくなっていまして、一方で省庁職員やいわゆる「政治家」の方々は報酬アップがあったり、とんでもない額のボーナスをもらっていたりで、フラストレーションは溜まるばかりです。制度による締め付けで民間の収入を削って、増税で民間の支出を増やして、介護職不足が起きるのも当然です。

      仕事の愚痴は、読める文章にまとめられたら、ブログ記事かブルースカイに吐きだそうと思っています。こちらも読んで(聞いて?)いただけますと、少しスッキリします。
      今後とも、よろしくお願いいたします。

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