「変身」或いは読モシャウト

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「ある朝、グレゴール・ザムザが目を覚ますと、自分が一匹の巨大な毒虫に変わっているのを発見した」……でしたっけ? はい。「変身」といえばという話です。

 何かから連想したわけでもないのに、或いは何かから想起させられて、過去の悔しい思い、悲しい思い、恥ずかしい思い、罪悪感などが胸を掻き毟ってくるということが不意に起こります。誰しもにあるアレですね。
 それ以外にも、貰って嬉しかったはずの言葉に「言葉の裏」が発生して、思い出が徐々に腐っていく感覚というのもあります。社交辞令を真に受けて舞い上がっていた自分を俯瞰して恥じるというのは必要な機能であると思いますが、貰った褒め言葉や感謝の言葉を時間差で悪意に変換するのは不要な機能だと思います。どうにかなりませんかね。

 それらが日常的に急襲をしかけてくるとき、無意識に口から声が漏れます。呻き声だったり唸り声だったり。
 そんな時には「変身」と口に出します。人の多いところなら雑踏に掻き消えるぐらいの小声で。人のいないところなら、はっきりとした声量で。なんなら「変身」の手ぶりも加えて。

 変身したのなら、過去の失敗からくる苦い気持ちに耐えうる自分になっているはずですから、呻くことも唸ることも胸を掻き抱くことも顔を覆うこともしなくてよいのです。理屈が通ってますね。自己暗示。


 時には、漏れる声が呻きや唸りで済まないこともあります。主には仕事の移動中、車内でひとりでいる時に嫌な気持ちが強く思い出されるときです。呻きの声量が段々に上がっていき、叫ぶ形になります。こうなると「変身」ではなく読モシャウトに切り替えます。「仮面ライダーアマゾンズ」の水澤悠/アマゾンオメガのアレです。あえて文字に起こすなら「ォォォォォオオオオオ!! ア゛マ゛ソ゛ン゛!!」という具合のアレです。
 記憶に苛まれて叫ぶときは「ア」の音ですが、これを「オ」に切り替えてひとしきり発声したところで「ア゛マ゛ソ゛ン゛!」です。これで気持ちを切り替えます。自分よりよっぽど苦しい思いをした水澤くんがその色々に耐えているのですから、同じく読モシャウトをした以上は自分もどうにかしないといけません。真似して鼓舞することへの責任が生じます。

 読モシャウトの難点は一気に声が涸れて仕事に支障をきたすことです。しかし、声を涸らす程度で、どうにかなりそうな頭を冷やせるのでお得であるといえましょう。

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