家のなかでカマイタチに遭ったかもしれない

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 家のなかでカマチタチに遭ったかもしれません。

 急に何を言っているのかと思うのは当然です。しかし、まあ聞いて下さい。気が付いたら足に切り傷ができていました。痛みも出血もなく、気が付いたら切れていたのです。これはカマチタチの仕業でしょう。でなければ、わたしがぼーっとしているということです。はあ、なるほど。「だったら、お前がぼーっとしているのだろう」と。たぶんそうなのでしょうけど、それでは話が終わってしまうじゃないですか。



 そもそもカマイタチとは何かとということを説明しましょう。大雑把に言えば、カマチタチは妖怪です。3匹1組で行動し、人間を転ばせる、切り裂く、切り傷に薬を塗って止血するというふうに、それぞれに役割を持っています。一連の行動が目にもとまらぬ早業でこなされるため、切られた側は、風が吹き抜けたと思ったら切り傷ができていたという認識になります。……たしかこんな感じだったはず。

 

 わたしが何を以てカマイタチに遭ったと言っているのかといえば、切り傷の様子を根拠としています。
 先の通り、気が付いたら足に切り傷が出来ていました。よりくわしく言えば、膝に対してナナメ向きの長さ7cm程度の切り傷です。傷が浅いのか、血が滲んでいるように見えて、触ってみた手に血の付着はありませんでした。衣類や周辺の物にも血痕はありません。

 見た目に反して痛みも出血もありません。当日の外出から帰り、シャワーを浴び、PCで作業をしていたところ、ふと視線をやった膝が切れていたわけです。この時期ですから、家では半ズボンで過ごしていますので、露出した膝が視界に入ることは多いです。それまで何ともなかった膝に傷ができていたのですから、少しは驚きました。

 気づかぬ内に切れていて、しかし痛みも出血もない……これはカマイタチの仕業ではないかと考えました。


 「カマイタチが出た!」と妻に経緯を伝えたところ、私室にいるぬいぐるみや人形が下手人ではないかという説が提唱されました。ついに部屋主に反旗を翻したのではないか、と。たしかに怪獣のソフビなんかは角やら爪やらもあります。切ろうと思えば、切れ……いや、切れるでしょうか?


 それにしても不思議です。紙で指先を切るということはあるでしょう。わたしも何度もやっています。しかし、あれの痛みや出血の具合とはずいぶん違います。膝をぶつけて青あざができることもあるでしょう。ですが、ぶつけて切れたにしてはやけにまっすぐな切り傷なのです。


 これはもう、カマイタチの仕業といっても過言ではないでしょう。30余年生きてきて、はじめて妖怪に出会えたかもしれません。カマチタチたちが家の中に滞在しているのか、もうどこかにいってしまったのかわかりませんが、珍しい体験ができました。

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