「とらやのようかん」というのは、名前だけは聞いたことがありました。よくわかってはいませんが、できるビジネスマンや一定以上の階級の家庭間での贈答品に用いられるもので、至極平易な言い方をすれば「すっごくよいお菓子」と認識していました。
伝説に語られるのみで、わたしの生きる世界には存在しないのだろうと思っていた「とらやのようかん」を頂いてしまいました。

いったんの決着を見た仕事にて、「家族がお世話になったから」とか「また何かあったときにはお願いします」とか「次は自分がお世話になるかもしれないから」と、お気持ち以上のものを頂きました。もちろん、本当は受け取ってはいけないものです。会社にバレれば、よくて減給でしょう。
ただ、品の値段の多寡に関わらず、気は心と申します。ご本人の人生から見れば、45分の1程度というごく短い期間ではありましたが、わたしなりの真心を以て接した結果を「気持ちだから」と差し出されれば、受け取らざるを得ません。仕事上の保身のために、相手の気持ちをむげにしたくはありません。
思い返せば、わたしが地域担当を外れたあとも、困ったことがあれば第一にわたしへ電話をくれていました。業務外のことではありましたが、会社に内緒にしてもらうという口約束で、家具のちょっとした修理(素人仕事)をやったりもしました。最終の仕事も、背中(のちに胃らしいと推定)が痛いなかでの力仕事で「体が疲れた」という印象が残りました。短い間の付き合いではあっても、色々と思い出のある方です。
……こうして考えてみると、社会単位では存在意義のないわたしですが、やはり、個人レベルで見れば「誰かに感謝される仕事」ができているのかもしれません。
ところで、件の「とらやのようかん」は、もったいなくて手をつけていません。
もう少し寒くなってきたら、温かいお茶でも淹れて、休日にゆっくり頂こうかと思います。
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