かつてわたしがコンビニバイトに勤しんでいた1年間のこと。いちばん腹の立った「お客様」の属性は何かと考えれば、それは「立ち読み」です。
会計を終えてからポイントカードを出すオジサンではなく、酔っぱらって売り物のワインの瓶を割るお姉さんでもなく、若い女性店員に延々と世間話を持ち掛けるオジサンでもなく、なぜか常に怒っているおじいさんでもなく、店舗前に食べ残しを放置していくヤンキーくずれでもなく。
もちろん、わたしが勤務していた夜勤の時間帯においては、立ち読み客の存在が、特に防犯効果につながるものだということは知っています。おかげさまというべきか、あるいはわたし自身の強運ゆえか、1年間でコンビニ強盗に遭遇したことはありません。ヘルプで入った日勤の際に、万引き高校生はいましたけど。
なぜにわたしが立ち読みを非難しているかといえば、それを「情報の万引き」と呼べる行為だと捉えているからです。
やや強い表現であるという指摘は、否定しません。
最初は何とも思わなかった立ち読みですが、コンビニの従業員として過ごす間、日に日に悪感情が強まっていきました。店頭に並んだ書籍の内容というものは、本来ならば金銭等の対価を支払わなければ得ることのできない情報です。コンビニは図書館ではありませんし、読み終わった本を貸してくれる友人でもありません。タダで情報をかすめ取ろうというのは、卑しい行いではないかと思えてなりません。毎週ジャンプを買っていく固定客のサラリーマン(らしき人)がいる一方で、毎日のように、何を買うでもなく立ち読みだけしていく常連客(客と呼んでよいのか?)がいました。正当な手段で情報を得ている人間がいるのに、払うべき対価も払わずに同じ内容を読んでいる人間がいることが、わたしには不満でした。
いえ、ただただ情報を盗むだけならば、わたしとて、腹を立てつつも「立ち読みは情報の万引きである」などと罵倒混じりの表現をすることはありません。いち従業員としてだけでなく、自分が本を買う立場になったときに被る不利益があるのです。彼ら彼女らが立ち読みをした後、残される書籍の状態を想像していただきたいです。
ひとりでの長時間の立ち読みや、入れ替わり立ち替わり複数人による立ち読みによって、売り物であり新品であるはずの書籍はキズモノになります。折れやヨレ、めくり跡や開き跡……悪ければ表紙が破れていることもありました。より潔癖な考え方をするのなら、買うわけでもない連中が手垢をベタベタとつけていることも、商品価値を損なわせます。
とても新品と呼べない状態になった書籍が、正当に金銭と引き換えに情報を得ようとする人間の手に渡るというのは、納得しがたいものがあります。自分が正規の値段で買った本が、破れたり汚れたりしていたら嫌でしょう?
食品と書籍とを同列に語ることはできないと承知の上で、商品を売り物にならない状態にするという意味で、立ち読みは「売り物のコンビニおでんを指でつつく」と近しい行為であると言いたいです。他人のことを考えず、その瞬間の自身の満足感だけを得られればよいという点も似ています。自身が買うべき内容かを確認したいという「試し読み」としての立ち読みならば、読み跡がつくような読み方はしないでしょう。
払うべき対価を払わずに情報を得て、しかも書籍をキズモノにする。まじめに生きている人に損をさせる立ち読みを「情報の万引き」として強く非難したく思います。
立ち読みは「情報の万引き」と呼べるのではないか

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