「男の夢」が叶う時

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 「男の夢」と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。女性にはわからないことかもしれません。しかし、男に生まれたのなら、誰しもが夢見るだろうことです。そして、わたしも「男らしさ」に欠ける性格ではあるものの、生物的には男性です。計めぐらせ、嫉妬深く、他人をうと常々々しい振る舞いをするものではありますが、まあ、男性的な性格ではあります。たぶん。
 なので、わたしもまた男性共通の「男の夢」を抱いていたわけです。そうそう叶うこともないだろうと思っていたものですが、実はもう10年以上前に、その憧れのシチュエーションが実現しているのです。世間で言うところの勝ち組であると誇ってもよいのではなかろうかと、自賛するものであります。ええ、非常に恵まれていますね。


 はい。なるほど。「男の夢」というものが具体的に何を指すのかわからないと。ごもっともです。しかし、聞けば納得するものでしょう。
 男として生まれたのなら、誰しもが夢に見る憧れのシチュエーション。それは「恋人をお姫様抱っこすること」です。いかがでしょうか。確かに男性共通の憧れであると肯んずるものではないでしょうか。
 王子様……などと言うには、外見も内面もあまりにそのイメージからかけ離れるわたしですが、それでも王子様のように、恋人という「自分にとってのお姫様」を抱きかかえたいと憧れたものです。いえ、実際は王子どころか大路を往く狂人の如きではありましたが。


 わたしにとってのお姫様というのなら、それはもちろん妻(当時は入籍前ですが)のことです。強く優しく美しくGO! 文句なしにお姫様プリンセスの素養のある人類です。そんな素敵な人で、わたしにとって最初で最後の恋人ですから、叶うことなら「男の夢」を実現させたく、交際当初からうずうずとしていました。
 

 ここまで長い前振りをしておいて、実は夢の叶った記念すべき時の詳細を覚えてはいません。何かの拍子にお姫様抱っこをさせてもらえました。夢の叶う瞬間は呆気なく、しかし、やはり嬉しいものでした。最近は機会がないのが残念ですが、その後もちょくちょくお姫様抱っこをさせてもらっていました。
 妻は自身を「重い」とか「少しは痩せた方がいい」とか称しますが、わたし程度の腕力で持ち上がるのですから、それは逆説的に「重くない」「太っていない」ということです。自認と現実がずれることはままあります。世間やBMIが何を言うとしても、わたしが抱っこできるのですから、わたしにとっては標準なのです。


 お姫様抱っこはよいものです。あたたかさ、やわらかさ、重さという生命として実体があることを存分に感じることができます。愛しい人が自分の腕の中にいるという現実は、心やすらぐものです。ただのハグでは重さを感じることはできません。重量があるということが、存在を実感することに大きく影響します。やはり、抱き上げるという形式をとることが大事です。


 お姫様抱っこをしたい。共通の趣味で楽しくお話をしたい。いっしょに映画を観に行きたい。エトセトラエトセトラ……。妻は色々な夢、恋人としての憧れを叶えてくれました。あまりにわたしに都合がよすぎて、今でもたまに、自身の妄想が高じて生み出した幻影なのでないかと不安に思うことがあります。
 そういうときは実在を確かめたくなるので、隙を見てお姫様抱っこができないかと画策しますが、なかなか抱っこさせてくれません。ハグだけで実在を確認することに、少しの寂しさを覚えつつも、しかしやはり安心します。


 一度叶っても夢は夢。再度実現すれば何度だって夢見心地です。たくさんある幸せを感じる瞬間のひとつです。

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