今年の怪人たちは社会派

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 仮面ライダーやスーパー戦隊、ウルトラマンなどの特撮ドラマの見方というものは人それぞれかと思います。アクション面であったりキャラクター性であったり、ドラマ性であったり、造型やカメラワークであったり。
 名前を挙げた3シリーズは50年以上続いているだけあり、どの視点で見るかということを気にせずとも楽しめる素晴らしいものです。子供向けであっても子供だましではない、というやつですね。


 現在放送中の作品についてもシンプルに「面白い」という感想を抱くわたしですが、そのなかでも毎年魅力的な「怪人」が今期は特に見どころが多いように思います。
 当記事のタイトルにつけましたとおり、社会派な……つまりは実社会に存在する要素を取り込んだキャラクター付けがなされているというのが、ある種のリアリティを感じさせてドラマへの没入感を高めてくれます。


 昨年の9月から放送されている「仮面ライダーガヴ」に登場する怪人は、グラニュートという異種族(の一部)です。
 怪人として仮面ライダーと対峙する彼らの多くは、劇中にて高い中毒性があるように描写された「闇菓子」を報酬として受け取る代わりに、その「闇菓子」の原料となる人間を拉致する仕事をしています。「闇菓子」を製造する会社に雇われ、劇中でもバイトと呼ばれる彼らは人間に化けて、人間の世界で暗躍しています。
 怪人の着ぐるみと「闇菓子」という劇中アイテムでカバーしていますが、言ってしまえば薬物中毒者が薬物ないしそれを買うための金銭を得る為に違法な労働(犯罪)に手を染めている形です。より昨今の世相に照らすなら、闇バイトがモチーフとして取り込まれているものと見受けます。
 自分の欲望の為に他人を食い物にする(比喩でなく)こと自体は生物の多くが行うものではありましょうが、法の下で生きながらその枠組みの外で欲を満たそうとするのは、やはり「悪」として描かれることに説得力があります。子供にとってもわかりやすい悪者であり、大人が見れば拉致された犠牲者たちの末路を思ってより憎く思う立ち回りをしています。
 彼らの魅力というのは、その「仕事」の仕方に個性が現れるところです。多様な犯罪の手口とも言い換えられます。拉致の手段そのものももちろんなのですが、上質な「闇菓子」の材料にする為に「幸せな状態の人間」であることが求められ、彼らにとっての異種族である人間を如何に幸せにしてから拉致するかと工夫が凝らされているのが毎度感心させられます。
 特撮ドラマを観ながら「こいつでもこんなに仕事ができるのに、自分ときたら……」と少々落ち込むこともありますが。


 同じく現在放送中の「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」に登場する怪人であるノーワンもまた魅力的です。当作品はまだ3話までの放送でありますが、これまでに登場した2体のノーワンはどちらも個性的なものでした。

 幹部怪人に曰く「みんなペッペケペーだけど、なにかしらのナンバーワン」らしいノーワンですが、単純に暴力や超能力でヒーローと戦うのではなく、各々の持つ一芸で競おうとします。トレジャーハンターノーワンはトレジャーハント対決、人気者ノーワンは人気投票対決といった具合です。
 そんなノーワンのどこに実社会の要素があるかといえば、おそらく「生成AI」をモチーフとして取り込んでいるところです。彼らが人間世界に出現する際に、異なる5つの単語が映される演出があります。これらは怪人を構成する要素のようで、生成AIにおけるプロンプトのように見えます。
 また、トレジャーハンターナンバーワンを名乗っておきながら、トレジャーハントと称して強盗を働いたり、人気者ナンバーワンとして得票するための手段が支持者の洗脳であったりします。これらは「それっぽい結果の表層をなぞるだけで、成立しているよう成立していない。過程がぐちゃぐちゃで、工夫や努力を重ねた『人間』には及ばない」というAIによる生成物に通じるものを感じます。
 先述の「闇バイト」に比べれば悪と言い切ることもできない生成AIですが、逆にいえば、使う者しだいでは善悪どちらにも傾き得るという表現にも思えます。劇中では人間界を攻撃する尖兵として派遣されているノーワンですが、種族として人間を憎んでいるわけでもないようなので、これから先の展開次第ではただ「敵」として終わらず共生の道もあるかもしれません。
(直近の生成AIモチーフらしき仮面ライダーも『善』でありながら『敵』として描写されていて、まさに使い方次第でしたし)



 怪人はただのやられ役でもなければ、ヒーローの引き立て役でもありません。幹部クラスでもなければ1~2週間で交代する短命な彼らですが、それぞれにそこまで生きてきた背景があり、劇中で「生きている」キャラクターです。
 改造人間であったり、人間の欲望から作られる怪物であったり、たんぱく質を求める人喰いであったり、作品ごとに位置づけの違う彼らです。立場が違えば価値観も違うわけで、「人間側」であるヒーローに感情移入しがちなところで、少し意識して怪人の「事情」を汲んでみるのも面白い見方でないかと。
 そうです。相手の立場にたって考えてみれば、どうしてそんなことをするのかという納得感も得られるはずです。なぜ「彼」はクリスマスにシャケを押し付けてたのかとか考察するのもよいでしょう。

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